矯正治療は虫歯があってもできる?矯正と虫歯の関係性とケア方法について解説
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矯正治療は「虫歯があってもできる(虫歯治療と並行して受けられる)ケース」と、「先に虫歯を治療しなければならないケース」があります。一般的には先に虫歯を治療しますが、前歯の部分矯正で奥歯に虫歯がある場合などは、並行して治療を受けられる可能性があります。
一方で注意したいのが矯正治療中にできた(見つかった)虫歯および、歯周病の悪化です。矯正治療を中断しなければならなかったり、マウスピース矯正であればマウスピースを作り直さなければならなかったりすることがあります。
虫歯や歯周病によって矯正期間が延びたり費用が高くなったりすることのないよう、正しい知識とケア方法を身につけておくことが大切です。
この記事の監修医師

安藤 雄基 歯科医師
- 監修
愛知県名古屋市で歯科・小児歯科・矯正歯科・歯科口腔外科に加え、美容皮膚科の診療も行う「あんどう歯科・美容皮フ科」を2023年に開院。一般歯科・審美的な歯科治療、子どもの口腔機能に着目した小児矯正を得意としています。美容皮膚科と連携をとりながら、健康と美を求める患者さんのサポートを目指しています。
虫歯でも矯正治療はできる?


「虫歯があっても矯正治療はできるのか?」の答えはケースバイケースですが、虫歯を治してから矯正治療をスタートするのが一般的です。特にワイヤー矯正の場合、ブラケットを歯に接着剤で固定するため(虫歯治療がしづらくなるため)、先に虫歯を治すことになるでしょう。ただし、虫歯がごく初期のC0(※)の段階であれば経過観察で済ませることもあります。
またC0より進んだ虫歯でも、矯正治療(装置)の妨げにならない部位にある場合は、矯正治療と虫歯治療を並行して進められることがあります。たとえば、前歯のみの部分矯正を受ける方で奥歯に虫歯がある場合は、矯正治療と虫歯治療を並行して受けられる可能性があります。
そのほか取り外しができるマウスピース矯正の場合も、軽度の虫歯であれば矯正治療と並行して治療を受けられる可能性があります。使用する矯正装置や虫歯の範囲・部位、進行度合いなどで異なるものの、基本的には矯正治療を始める前に治すものと考えてよいでしょう。
※Cは虫歯を意味するカリエス(Caries)の頭文字です。Cの後ろには0〜4までの数字が続き、数字が大きくなるほど虫歯が進行しているという意味になります。
歯並びが悪いと虫歯になりやすいって本当?
歯並びが乱れているという理由だけで虫歯になることはありません。しかし、歯ブラシの毛先が届きにくい箇所がある方、食べ物が挟まりやすい(取れにくい)箇所がある方などは、清掃が行き届かず口腔内が不衛生になりがちです。磨き残しが歯垢となって蓄積すれば、虫歯や歯周病になる可能性も高まると考えてよいでしょう。
なお重度の乱ぐい歯や叢生(そうせい=でこぼこした歯並び)などがある方もそうですが、軽度の不正咬合でも歯ブラシの毛先が届きにくい箇所がある方は注意が必要です。
また歯並びとあわせて、「やわらかめ」「ふつう」「かため」など歯ブラシの硬さも大切な要素です。たとえば歯並びが凹凸している方が「やわらかめ」を使うと、毛先が曲がって凹の部分に毛先が行き届かず、磨き残してしまうことがあります。
適した歯ブラシの硬さは歯並びの状態によって異なりますが、丁寧にケアをしている自覚があるのに虫歯になりやすいと感じている方は歯ブラシに原因があるのかもしれません。
虫歯の有無は矯正治療を始める前に歯科医師がチェックするはずです。しかし気になる方は、自分から歯科医院を受診して虫歯のチェックを受けること、あわせて自分に合った歯ブラシの硬さについて聞いてみることをおすすめします。
矯正治療中に虫歯になりやすい理由


矯正治療中は、普段よりも虫歯になりやすいといわれています。「矯正装置があること」「歯列が動くこと」「唾液の作用を受けにくくなること」などがその理由です。それぞれ詳しく説明します。
矯正器具に歯垢や食べかすが溜まりやすい
ワイヤー矯正では、ブラケットを歯1本に対して1つずつ接着剤で固定します。取り外しはできないため、その状態のままで食事をすることになります。
ブラケットは小さな凹凸がある複雑な構造をしている上にワイヤーも通っているので、非常に細かな(狭い)デッドスペースのようなスポットが数多くできてしまいます。その結果、肉の筋や野菜の繊維質がワイヤーに絡んだり、細かく噛み砕いたご飯やおかずなどがブラケットの凹凸に溜まったりします。
取り除きにくい箇所に溜まった食べかすは、時間の経過とともに歯垢となって頑固にこびりついてしまうため特に注意が必要です。虫歯菌が歯垢を分解する際に酸が作り出され、その酸によって歯が徐々に溶かされることで、やがて虫歯となってしまうからです。
歯ブラシが十分に行き届かず、汚れが残りやすい
ワイヤー矯正では、食事だけでなく歯磨きも矯正器具を取り付けたままの状態でおこないます。ブラケットやワイヤーに対して通常の歯ブラシでは大きすぎるので、これまでのような歯磨きの仕方では汚れを取り除くことができません。
そのため、ヘッドが小さくブラケットにフィットしやすい矯正専用の歯ブラシなどを用意するのが一般的です。しかしながら矯正専用の歯ブラシでも、ワイヤーとブラケットの小さな隙間や、歯の表面とブラケットとの隙間などはどうしても磨きにくいのが現実です。
加えて、これまでの歯磨きとは勝手が違うことから慣れるまでに時間がかかることもあるでしょう。また歯ブラシの動かし方にはその人のクセがあるため、丁寧に磨いているつもりでも特定の箇所だけいつも磨き残してしまうといった場合があります。
矯正治療中は特に、磨き残しがなくなるようこれまで以上に正しい歯磨きの仕方を意識することが大切です。正しく磨けているかどうかは、歯科医院を受診した際に教えてもらうことができます。あるいは歯垢をピンクに染める市販のプラークチェッカー(染め出し液)を使って、セルフチェックをするのもよいかもしれません。
矯正治療による歯根の露出や歯肉の変形
矯正治療で歯が動くことにより、歯茎が下がる「歯肉退縮」が起こることがあります。歯肉退縮が進んで歯根が露出した状態になると、その分、汚れが付着する面積も増えることから虫歯のリスクが高くなるといわれています。
歯肉退縮の原因はさまざまですが、矯正治療で歯や歯槽骨に無理な力が加わった結果、骨が吸収されたりうまく再生されなかったりすることが一因と考えられています。また、矯正治療中の口腔内のケアが不十分だった場合も、汚れが原因で歯肉に炎症が起こり、やがて歯茎が下がってしまうことがあります。
歯肉退縮は、取り外しできるマウスピースを使った矯正治療でも起こることがあるため、矯正器具の種類にかかわらず丁寧なケアを心がけることが大切です。
唾液が歯に触れにくくなるため
唾液には消化を助ける働きのほか、酸性に傾いた口腔内を中和して中性に保つ作用や、細菌の増殖を抑える作用、歯の再石灰化(※)を促して虫歯を防ぐ作用などがあります。しかしマウスピース矯正の場合、歯にマウスピースを被せるため唾液のそうした作用が十分に得られず、結果として虫歯になりやすくなる可能性があります。
マウスピース矯正を検討している方は、唾液の作用が得られにくくなることを覚えておくとともに、朝昼晩の食後は丁寧にケアをして口腔内を清潔に保つことを心がけましょう。
※食後などに酸によって溶け出した歯の表面が、唾液の作用によって修復される現象を「歯の再石灰化」といいます。
矯正期間中の虫歯の予防方法


矯正治療中に虫歯になるのを防ぐには、日々の丁寧なケアを怠らないことが基本です。しかしセルフケアだけで虫歯を100%防ぐことは難しいため、定期的に歯科医院を受診して早期発見につなげることも大切です。
毎日の歯磨きをより丁寧におこなう
表側ワイヤー矯正の場合
矯正専用の歯ブラシを用意しましょう。歯ブラシをブラケットに対して斜め45度くらいに傾けて磨くと、ワイヤーやブラケットと歯の隙間などが磨きやすいです。また毛先でブラケットの凹凸などを丁寧に磨くため、小刻みにスライドさせるのもポイントです。
ワイヤーの裏側にも汚れが付着しています。歯ブラシを縦に持ち、毛先をワイヤーの下に通すイメージで磨きましょう。力を入れて大雑把にゴシゴシ磨いたり、ワイヤーの裏などの狭いスペースに歯ブラシを強引に差し込んだりすると、矯正器具が損傷するおそれがあります。優しく丁寧なブラッシングを心がけましょう。
裏側ワイヤー矯正の場合
歯の裏側にブラケットがあるので磨きづらいですが、基本的なポイントは表側ワイヤー矯正と同じです。矯正専用の歯ブラシを用意し、ブラケットに対して斜め45度くらいに傾けて磨くことでワイヤーやブラケットと歯の隙間などが磨きやすくなります。ブラケットの凹凸は毛先を確実に当てた上で、小刻みにスライドさせて磨きましょう。
ワイヤーの裏側は、歯ブラシを縦に持って毛先をワイヤーの下に通すイメージで磨きます。鏡を見ながら1本ずつ丁寧に磨いていくことが大切です。
マウスピース矯正の場合
マウスピースは取り外しができるため、これまで通りに歯磨きをしてください。マウスピースを装着していると唾液の作用が行き届きづらくなるため、凹凸などで毛先が届きにくい場所がある方は特に、その部分を丁寧に磨くことを心がけましょう。
フロスやマウスウォッシュを活用する
矯正治療中は、歯ブラシだけでなくフロスも使いましょう。歯と歯の隙間の汚れを取り除くなら「ロールタイプ」のフロスがおすすめです。一方、ブラケット周りのケアに使いやすいのは「歯間ブラシ」タイプです。矯正中のフロスの使い方は以下の記事で詳しく説明しているので参考にしてください。
また、あわせてマウスウォッシュを使い、口腔内を清潔に保つのもよいでしょう。ただし頻繁にマウスウォッシュを使用すると、常在菌が洗い流されて口腔内の環境(細菌バランス)が崩れるおそれがあります。パッケージに記載された用法・用量は守りましょう。刺激が強いと感じる方はノンアルコールタイプを選ぶのがおすすめです。
甘いものの飲食を控える
虫歯菌は飲食物に含まれる「糖」を養分として増殖します。このため、甘いものの飲食はできる限り控えるとよいでしょう。ただし虫歯菌のエサになる糖は炭水化物にも含まれるため、甘いものを断っただけで虫歯が防げるわけではありません。あくまで虫歯リスクを少しでも減らすための対策と考えてください。
また甘いものを食べたいときは、虫歯菌が分解できない(酸が産生されない)とされる、キシリトールなどの代用糖を使用したものを選ぶのがおすすめです。
定期的に歯科医院に通う
矯正治療中は定期的に歯科医院に通うのが一般的です。この通院は単に矯正治療の進行具合を確認するためだけでなく、虫歯のチェックや毎日の歯磨きだけでは取り除けない汚れのクリーニングなども兼ねています。
仮に虫歯ができたとしても、定期的に通院することで早期発見につながる可能性が高くなります。矯正治療中は特に、決められた間隔できちんと歯科医院に通うことを心がけましょう。
なおマウスピース矯正の場合、ワイヤー矯正よりも通院間隔が長い(通院回数が少ない)ことがあります。心配な方は自主的に検診やクリーニングを予約することをおすすめします。
矯正期間中に虫歯が見つかったら?


矯正治療を始める前に虫歯がなかった(見つからなかった)という方も、矯正治療中に新しく虫歯になる(見つかる)場合があります。「歯に穴が空いてる気がする」「しみるような気がする」など、少しでも異変を感じたら速やかに歯科医院を受診しましょう。
違和感を放置するのは厳禁です。虫歯ができた場所や進行度合いなどによっては、矯正治療を中断して虫歯治療をしなければならなくなる場合があるためです。
また虫歯だけでなく、矯正治療中は歯周病にも注意が必要です。少し大げさですが、ワイヤー矯正の場合はブラケットを外して歯周病を治療する、すなわち矯正治療をやり直さなければならなくなるかもしれません。マウスピース矯正の場合も、歯周病によって歯がグラつくなど歯列が微妙に変わってしまえば、マウスピースを作り直さなければならなくなる可能性があります。
いずれも矯正期間が延びるだけでなく、イメージしていた歯並びに仕上がらなくなるおそれや、費用が膨らむといった懸念点もあるため、小さな異変のうちに歯科医院を受診してください。なお通っている歯科医院が矯正専門だった場合、虫歯治療ができる一般的な歯科医院を受診しましょう。提携している歯科医院があれば紹介してもらえるはずです。
まとめ


矯正治療は虫歯を治してから始めるのが一般的です。事前に検査するはずですが稀に見落としたり、ごくごく初期で経過観察だったものが矯正治療中に悪化したりすることもあります。
いずれにしても矯正治療の妨げにならないケースを除き、虫歯がある状態では矯正治療を中断したり、ひどくなるとやり直しが必要になるケースもあるため注意が必要です。
また、矯正治療中はそれまでと比べてケアが行き届きにくくなることから、虫歯になりやすい状態といえます。より丁寧なケアを心がけるとともに、定期的に歯科医院を受診して虫歯のチェックやクリーニングを受けるようにしましょう。