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顎変形症とは?治療の流れや手術法を解説します!

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顎変形症とは、上顎と下顎のバランス不全や顔の変形などの症状のことで、改善するためには手術が必要な場合もあります。
今回の記事では、顎変形症の種類や原因、治療の流れなどについて紹介します。顎変形症の疑いがある方や治療を検討している方は参考にしてください。

この記事の監修医師

梅山 遼 歯科医師

梅山 遼 歯科医師

  • 監修

京都大学医学部附属病院歯科口腔外科、独立行政法人国立病院機構南和歌山医療センター麻酔科、東京大学医学部附属病院口腔顎顔面外科、順天堂大学医学部附属順天堂医院歯科口腔外科医局長を経て、現在は、DELTA CLINIC虎ノ門 歯科口腔外科・矯正歯科にて歯科医師として勤務しています。

顎変形症とは?

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顎変形症とは、上下の顎骨に異常が起こることによって顔貌が変形したり、咬合に異常をきたしたりする疾患を指します。
多くの場合、歯科矯正治療で歯並びの治療を行いますが、歯科矯正のみでの改善が難しいケースでは、外科的な顎骨の骨切り手術が必要です。

顎変形症によって起こる問題としては、顎や顔の形の変形・咀嚼が困難になる・発音が上手くできないなどがあります。疑わしい症状がある場合は、まずは検査で受診するとよいでしょう。
手術が必要かどうかを判断する際は、X線検査やCT検査のほか、顎顔面の形態検査や顎口腔機能検査などが用いられます。

顎変形性は、先天的にも後天的にも起こりうる症状で、その原因はさまざまです。生まれつき変形が認められる人のほか、骨折や脳腫瘍によるもの、発育異常によって変形が生じる人もいます。

顎変形症の原因は?

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顎変形症は、放置すると健康の維持に悪影響を及ぼします。
顎変形症の原因は多岐にわたり、外見や症状だけから原因を特定することは困難です。遺伝的要因や環境的要因、もしくはその両方が関わっていることが一般的だといわれています。

家族や親類に同じような症状の人がいる場合は、遺伝的要因による顎変形症である可能性が考えられるでしょう。また、顎変形症につながる環境的要因(生活習慣や行動などに由来するもの)としては、指しゃぶりや舌を出す癖などがあります。また幼い頃の軽い外傷が契機となっている場合もあります。

そのほか、子どもの頃は変形がなくても、成長に伴って顎が変形して症状が現れることもあります。変形の要因によっては、発生から時間が経つとともに症状が悪化する場合もあるため、早めに相談するとよいでしょう。

顎変形症の種類は?

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一口に顎変形症といっても、変形の程度や生じる場所によってさまざまな種類に分けられます。ここからは、顎変形症の種類と、それぞれのタイプで生じる症状について紹介します。どのような症状が出るのか知っておきましょう。

下顎前突症

下顎前突症は、下顎が長く大きく前へ張出している状態で、歯の咬み合わせが反対(反対咬合)になることが特徴です。
患者数が比較的多い症例で、日本人に最も多いタイプの顎変形症だといわれます。

下顎前突症の人は下顎全体が上顎に対して前方になるため、いわゆる「しゃくれ」と呼ばれる顔貌になります。下顎前突の問題点としては、受け口になることや、咬み合わせが悪いことが挙げられます。また、下顎が左右どちらかにずれているケースも多く見られます。

上顎前突症

上顎前突症は、上顎が下顎に対して過度に前方に位置する状態を指します。
このタイプの変形がある人は「出っ歯」の状態になることがあります。

上顎前突の問題点としては、唇が閉じられないこと、唇を閉じると顎の先端に梅干しのようなシワができることなどが挙げられます。また、笑ったときに上顎の歯茎が過度に露出する「ガミースマイル」と呼ばれる外見になることもよく見られます。

顔面非対称症

顔面非対称症は、下顎や上顎のずれによって顔の形態に左右非対称が生じる状態を指します。
眉間から顎先の真ん中の点を結んだ直線に対して、眉間と上唇の山型部分を結んだ直線が一致しておらず、左右どちらかに寄っている場合は顔にゆがみが見られます。

上顎の歯並びと下顎の歯並びに対して大きなずれが起こることによって、咬み合わせに問題が生じます。上顎に原因がある場合と、下顎に原因がある場合の2つのケースがあります。

小下顎症

小下顎症は、上顎よりも下顎が大きく後退した状態を指します。相対的に上顎前突症となります。
発育異常や手術後の変形などの後天的な原因でも生じますが、先天的に小下顎症の症状が見られる人もいます。

顔立ちに変形が見られることから、診断は比較的容易です。変形の程度によっては舌の根元が喉奥に落ち込むことで、鼻から喉への空気の通り道が狭くなります。これによって起こる問題が、いびきや睡眠時無呼吸症候群など、睡眠時に起こる症状です。

開咬症

開咬症は、上下顎の前歯もしくは奥歯が咬み合わず、空間ができている状態を指します。「オープンバイト」とも呼ばれ、力を入れて閉じたときでも歯と歯の間が空くため、上手く食べ物を噛み切ることができません。

原因はさまざまで、指しゃぶりによるものや舌の癖によって生じるケースのほか、顎の形や大きさに問題があるケースもあります。オープンバイトは将来的に歯を失う可能性が高い状態のため、治療が必要だといえます。

顎変形症の治療の流れは?

顎変形症の治療の流れは?の画像 顎変形症の治療の流れは?の画像

顎変形症の治療には、検査や矯正治療などさまざまな段階があります。完治までにはある程度の時間を要し、長い目で治療することが重要です。
ここからは、顎変形症の治療の流れについて紹介します。

検査・診断

咬み合わせや発音、いびきなどの症状から顎変形症の可能性が認められた患者には、歯科矯正や手術が必要かどうかを判断するための検査が行われます。

検査方法として用いられるものは、レントゲン検査・CT検査・型取りなどです。症状や変形の程度によって、異なる検査が用いられることもあります。
手術が必要だと診断されたときは、矯正歯科や口腔外科の専門医によって患者さんに説明が行われます。問題になる症状や手術の内容などを患者が十分に理解できたら、治療開始です。

手術前の矯正治療

顎変形症の手術を行う前に歯科矯正治療を行います。
手術前に矯正をする理由は、手術後に想定した咬み合わせで噛めるようにすることや、外科手術の負担を軽減することが挙げられます。
術前矯正治療の期間は、1年から1年半程度かかることが一般的といわれています。自由診療で治療する場合、先に手術を行う(サージェリーファースト)ことも可能です。

手術前の検査・診断

手術が決定したら、術前検査として、レントゲン検査やCT検査、咬み合わせの型取りや写真撮影を行い、顎を動かす方向などについて最終的な診断を行います。
検査・診断の結果をもとに、手術後を想定した咬み合わせでプレートを作り、手術時に咬み合わせを決定します。

また、術前検査のほかに必要な準備が、輸血のための血液採取です。手術中は出血が予想されるため、手術前に数週間かけて自己血輸血のための血液を採取し、保存します。

顎矯正手術

手術前に必要な矯正が完了したら、次は手術です。
全身麻酔を使用して顎の骨を切り、顎の骨を正しい位置に固定する外科的な手術が行われます。手術からしばらくは顎の骨が不安定な状態であるため、術後は1〜2週間程度の入院が必要です。

手術直後の食事は流動食から始めます。その後、お粥から固形物へ徐々に段階を踏んで硬いものを食べるように練習します。個人差はあるものの、術後10日程度で傷は落ち着くといわれています。最終的に腫れが安定するまではおよそ半年程度かかります。

術後矯正治療

手術が終わったら再び矯正治療を行い、咬み合わせを微調整します。
上下の歯を正確に咬み合わせるためには、歯列矯正治療を再度行い、適切な咬み合わせを作らなくてはなりません。

適切な咬み合わせを決めるには、筋肉や舌などの動きも考慮する必要があり、矯正治療に要する期間は、術後半年から1年程度だといわれています。また、術後は定期的に通院し、矯正装置を調整したり、傷や咬み合わせの状態をチェックする必要があります。

顎変形症の手術法は?

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顎変形症の手術方法には、変形の部位や程度、症状によってさまざまなものがあります。
以下では、顎変形症の手術方法を5つ紹介し、それぞれの特徴について解説します。

下顎枝垂直骨切り術(IVRO)

下顎枝垂直骨切り術は、下顎骨の歯のない部分を縦に分割する手術です。
軽度の下顎前突や下顎非対称に適用され、症状が顎関節にあるときや、下顎骨の移動の左右差が大きく、回転の要素があるときに用いられます。

神経が骨に入る部分の後ろで骨切りすることによって、神経障害を起こしにくいことがメリットです。
一方で、骨片の接触面積が小さいことから、骨の癒合に時間がかかるデメリットがあります。また、移動量に限界があり、この方法では治療できない顎変形症もあります。

下顎枝矢状分割術(SSRO)

下顎枝矢状分割術は、下顎枝を矢状方向に内外の骨片に分割する手術方法です。
骨切り面に対して広い接触が得られることから、術後の安定性が高い手術方法だといわれており、最も一般的な術式です。

また、下顎移動後の骨片の接触面積が大きいことから、骨の癒合が速く、後戻りが少ないというメリットもあります。
そのほか、移動量や移動方向の許容範囲が大きく、治療できる範囲が広いことも特徴です。
術後は下唇の知覚が一次的に鈍くなるケースがあります。

その他の下顎手術

その他適応される下顎に対する手術としては逆L方骨切り術(ILRO)や下顎枝垂直矢状分割術(IVSRO)などが挙げられます。いずれも適応に応じて最も適切な術式が選択されます。

オトガイ形成術

オトガイとは、下顎骨の正中下端部分を指します。オトガイ形成術は、オトガイ部の骨を移動したり、削除したりする手術方法です。
適応範囲は広く、オトガイ過長・小下顎症(オトガイ後退)・オトガイ偏位・口唇閉鎖不全症において適用されます。

手術時に左右の骨面を広く出しすぎると、左右の太い神経に影響する可能性があるため、繊細な技術が要求される手術です。通常は上記手術の術後の微調整に、プレート除去と合わせて行うことが多いです。

Le Fort I 型骨切り術

Le Fort I 型骨切り術とは、上顎骨を鼻腔下でほぼ水平に骨切りし、分離する手術を指します。顔貌・咬合状態において上顎を理想的な位置に移動可能な術式です。 さまざまな症状の手術法として採用され、上顎前突・上顎後退・開咬・顔面非対称、中顔面短縮などに適用されます。

上顎のみに処置を行う場合もまれにありますが、基本的には下顎と同時に行い、下顎の手術のみでは改善しない著しい顔面非対称症例や下顎前突症例では、下顎の手術とLe Fort I 型骨切り術が併用で行われます。

上顎前方歯槽部骨切り術

上顎前方歯槽部骨切り術は、4番目の歯(第一小臼歯)の抜歯を行いその分の骨を削除することで、上顎左右の犬歯~犬歯間の歯槽骨を骨切りし、プレートで固定する手術です。
上顎前突のうち、臼歯の咬み合わせが正常でありながらも上顎前歯部に不正咬合があり、矯正のみでは治療が困難な場合に行われます。

歯の生え方によっては、骨切り時に治療部分と隣接する歯を損傷する可能性があります。また上顎骨の壊死が起こることがあることが報告されています。

顎変形症の治療は保険適用になる?

顎変形症の治療は保険適用になる?の画像 顎変形症の治療は保険適用になる?の画像

顎変形症の治療は、保険適用になる場合とならない場合があります。
保険適用で治療を受けるには、国が定めるさまざまな基準を満たすことが必要です。
歯の矯正治療は、国が指定した場合に限って、保険を用いた矯正治療が認められます。国が指定した疾患には顎変形症を含むため、顎変形症は検査結果によっては保険適用で手術が可能です。

したがって、顎変形症は「顎骨の外科手術が必要だという診断」と、施設の基準を満たす「顎口腔機能診断施設での治療」によって、健康保険適用での矯正治療が認められます。
保険治療の場合は、矯正装置は原則として表側のワイヤー矯正のみです。マウスピースや裏側矯正などを用いたい場合は保険適用されず、外科手術も含め自費での治療が必要となります。

高額療養費制度の利用

高額療養費制度の利用の画像 高額療養費制度の利用の画像

顎変形症の治療に高い治療費がかかる場合には、高額療養費制度の利用を検討してもよいでしょう。

高額療養費制度とは、医療機関や薬局で支払う額が、月の初めから終わりまでで上限額を超えたときに、超えた分の金額を支給してもらえる制度です。美容目的の顎変形症治療では使うことができません。

自己負担限度額とは

高額療養費制度を利用すれば、医療費の自己負担額が高額になったとき、自己負担限度額を超えた金額分が払い戻されます。なお、自己負担限度額は、利用者の年齢や所得によって異なります。

自己負担限度額は1つの医療機関のみに適用される訳ではありません。同じ月に利用した別の医療機関での自己負担額を合算し、上限額を超えていれば制度を利用可能です。70歳未満の方で、医療費が高額になり負担が大きくなることがわかっている場合には、「限度額適用認定証」を医療機関へ事前に提示しておくと手続きが便利です。

※参照
自己負担限度額とは|全国健康保険協会.
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat310/sb3030/r150/#hutan(参照:2024年11月19日)
健康保険限度額適用認定申請書|全国健康保険協会.
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g2/cat230/r121/(参照:2024年11月19日)

まとめ

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顎変形症は、さまざまな症例があり、先天的にも後天的にも起こりうる症状です。
顎変形症を放置すると、歯の咬み合わせの悪化や発音への影響、睡眠への影響などさまざまな症状が表れます。疑わしい症状があるときは、検査を受けて治療法を検討しましょう。

手術方法は、症状の範囲や程度によってさまざまなものがあります。
治療は数年単位で時間をかけて行われ、手術を必要とする場合は、入院が必要です。退院後も定期的に通院し、傷の程度や咬み合わせの状態をチェックする必要があります。

また、顎変形症の治療を保険適用にするには、いくつかの条件があります。手術にかかる医療費が高額になることが心配な方は、高額療養費制度の利用を検討するとよいでしょう。

矯正歯科ネットプラス編集部

この記事の執筆者

矯正歯科ネットプラス編集部

矯正歯科ネットプラス編集部は、メディカルネットが運営する矯正歯科に特化した情報サイト「矯正歯科ネットプラス」で日々配信を行っています。

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矯正歯科ネットプラス編集部には、歯科医師・歯科衛生士が在籍しております。

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